スク水揚げに群がる男たち!スクガラスとは?

 沖縄には「スクガラス」なる保存食がある。 

「スク」とはエーグァーの稚魚の呼び名である。
 エーグァーとは、アイゴの沖縄での方言名だ。

エーグァーすく
出典:WEB 魚図鑑 「エーグァー」

 

 「カラス」というのは、塩漬けのこと。
 つまり「スクガラス」というのは、
スクの塩漬けのことなのである。

 ちなみに「琉球ガラス」はガラスだ…

 スクガラスは、瓶に漬け汁とともに入れられ販売されている。

市場本通りのスクガラス販売

 きれいにならべられた瓶の中のスク達
那覇市牧志の公設市場近くのお店などでは、このスクガラスを、瓶に頭を下側に向けてきれいに並べ詰められたものが販売されている。そのようなところでは昔から、小さい瓶は500円、大きい瓶は1000円と値段が変わらない。

 昔は、空き瓶を再利用して詰められたものが多かった(インスタントコーヒーの空き瓶など)。

スーパーで売られているもののほうが若干安いのだが、それらは漬け汁の中にスクが浮かんでいるだけ。綺麗に並べられてはいない。

 大きい瓶には、500匹以上ものスクが整然と並んでいるのだが、
どのようにこのスクを詰めているかというと、なんと手作業なのである。

 あの小さなスクを、箸で一匹づつ同じ向きで詰めていくのだ。

 はじめは、瓶の内側のガラス部分に、スクを
くっつけるようにして並べていき、次にその内側部分に
詰めていく…というような作業を永延と繰り返すのである。

 外側の見える部分だけきれいに並べているわけではない。
 瓶の中のスク全てが、頭を下にして整列しているのである。

 そこに手抜きは一切なしだ!

整然と並ぶスクガラス

 私は以前一度、瓶の中に入っているスクの数を数えたことがあるのだが、面倒くさくなって500匹で数えるのを止めてしまった。
 
 数えているだけで、気が狂いそうになったのに、それを整然と向きを揃えて並べていく作業は、考えただけで恐ろしいのである…

 きっと、並べる作業は、写経などのように、なんらかのご利益があるに違いない。

 そうでなければ、あのように全く儲けの合わない作業をできるわけがない!
…なんてバカことを考えるほど、きれいに詰められているのだ。

 ぜひ、有難く一匹一匹を味わってほしい。


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スクガラスの食べ方

 スクガラスの一番代表的な食べ方といえば、スクガラス豆腐だろう。
 沖縄に旅行に来たことがある方なら、きっと知っているに違いない。
 島豆腐の上に、スクがのっているアレである。

スクガラス豆腐の画像

スクガラス豆腐を発案したのは、琉球最後の国王「尚泰」の四男である「尚順」だそうだ。尚順は沖縄に様々な利益をもたらした人物である。1893年に「琉球新報」を創刊し、「沖縄銀行」を設立し、パイナップルなどを沖縄に導入したのも、この「尚順」なのである。尚順尚順は後年、「驚異の美食家」「グルメ男爵」などと呼ばれ、泡盛にも造詣が深かった。だからこそ、泡盛に抜群に合うこの「スクガラス豆腐」なるものを思いついたのかもしれない。

 しかしね、毎日スクガラス豆腐を食べるわけでもないだろうし、一般家庭でスクガラスを買ってきても、なかなか無くならないわけさ。だって500匹以上入ってるんだよ?居酒屋や料理屋じゃないと、使いきれないよ、とても。

(きれいに使っていれば、長いこと持つし、
逆に発酵が進んでおいしくなるんだけどね。)

 だから、なんか他の料理に使えないかな?
なんて考える人って、けっこう多いと思う。

でもね、意外といろいろ使えたりするよ。

まあ、わざわざスクガラスを使う必要を感じないけど、
早く使い切りたいなら、塩辛やアンチョビを
イメージして料理に使えば、たいがい問題ない。

 例えば、ジャガイモの蒸したものの上にスクガラス!なんて食べ方もありなのだ。(実際に蒸かしたサツマイモと一緒に食べたりもします。蒸かしたジャガイモの上に塩辛をのせて食べるみたいな感じだね。)

 ただし、スクガラスの塩気は確認すること。
 イカなど他の塩辛と比べると、かなり塩がきいているためしょっぱいんだな。
 
 でね、スクは瓶の中で発酵して、独特のうまみを醸し出すようになる。
 三か月くらいだと浅漬け、半年以上経ったものは
完熟状態となって、さらに風味をましてくるわけ。

 スクを漬けている汁は、要するに魚醤
(しょっつる、ナンプラー、ニョクマムなど)なんで、
料理の隠し味として使っても当然おいしいのだ。
(魚醤としてつかうなら、長いことつけているものの方がいいはず)

 魚醤の場合は、魚の重量の2割程度の塩を加え、
放置しどろどろに溶けたら濾すんだけど、スクガラスの
場合は魚を食べることを目的に保存されているわけさ。
(スクガラスの場合は、スクの重量の3割程度の塩を加えるみたい)

豆腐チャンプルー

 しかしだからといって、スクガラスの漬け汁を
使わないのももったいないでしょ。
 スクガラスの旨味が十分に染み込んだ汁を、チャンプルーや
煮物の隠し調味料として使ってもうまいんだな、これが。

 漬け汁だけではなく、スクガラスもみじんにすると、色んな
料理にもつかえるんだけど、トゲや骨があるから、その辺は注意してね。

ソムタム・パパイヤのサラダの画像

 例えばタイ料理に、青いパパイヤを使った
激辛サラダ「ソムタム」ってあるでしょ?
 細かく潰したスクガラスを使って、ソムタムを作ってもうまかったよ!

 沖縄では青いパパイヤを野菜として昔から食べてきたから、
「スクガラスソムタム」なんてメニューがあってもいいと思うんだけどな。

 ※スクガラスを瓶から取り出すときには、綺麗な箸で取り出すこと!手や汚れた箸を突っ込むと、そこから菌が繁殖してしまい、いたみやすくなってしまいます。


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さらに手間と時間をかけてスクガラスの漬け汁を最高の調味料にする方法!

米を水に2時間くらいつけて、すり鉢でつぶしたものを瓶に入れ、
スクガラスの漬け汁と泡盛を加え発酵させます。

それだけで風味が出せるんですが、
半年、一年と置くほど、風味はどんどん良くなります。
最低、3か月程度は置いた方がいいでしょう。

漬け汁は、スクガラスのエキスがたっぷり含まれていますから、
使わずに捨ててしまうのはもったいないですね。

栄養も豊富ですし、調味料としても
最高なものが出来上がります。

化学調味料も使わずに、料理に大変奥深い味が出せるのでお勧め。

生スクがうまい!

 生のスク販売スクガラスとして食べることが多いスクだけれど、実は、生なら刺身でも食べられる。昔は冷蔵技術が発達していなかったから、いたみやすいスクを生で食べられる地域というのは限られていたのだけれど、最近は獲ったばかりのスクがスーパーにも並ぶようになった。

 「スクの刺身って、あんなに小さいものを、三枚おろしにするの?」
なんて疑問を持つ方もいそうだが、そうではない。

頭から一匹丸ごとを食べるのである。

 豪快に骨ごとバリバリ食べちゃうのだ。
 さっと水洗いして、酢醤油などで食べる。
 (沖縄では酢は「マルコメ酢」が使われることが多い)

 さらに島唐辛子をつぶし混ぜると、もう最高!

スク唐揚げphoto by yamaunhi

 また生のスクの「から揚げ」もうまいんだ。
 スクガラスはさすがに塩辛いので、から揚げには
向かないのだけれど、生のスクガラスの唐揚げはうまい!

シークァーサーなんか絞っちゃうと、もう最高だね!

 生のスクは季節限定のものだから、スーパーで見かけたら、
次はなかなか食べることが出来ないと思って、ゲットすることをお勧めする。

スクの漁「スクまい」

 スクは、スクガラスにするにしても、生で食べるにしても、
「餌」となる藻を食べる前のものでなければならない。

なぜなら、藻を食べてしまったスクは、お腹が臭くなってしまうのだ。

 スクは生まれた時は外洋にいるのだが、
その時にはプランクトンを食べている。

しかし、いったんリーフに入ると、浅瀬に生えている
藻を食べるようになるのである(生まれてから3日後あたりと言われている)。

 だから、スクの影が見えたという報告があれば、
スクがリーフに入ってくる前に、男たちは「スクまい」(漁)
に急いで取り掛かり、大軍を一網打尽にするのだ。

生のスクが食べられるのが期間限定なのは、
水揚げされるのは夏だけだから。

スクは不思議なことに、旧暦の6月1日、7月1日、8月1日前後の大潮に近い日に
群れをなして押し寄せてくるのだが、それっきりなのだ。

スクの大群が押し寄せる様子は目でも確認できる。
銀色に染まった塊がまっしぐらに海岸へ向かう様子は圧巻なのである。

スクの大群スクの大群がリーフに押し寄せる!!

 
 「スクまい」が盛んなのは、沖縄本島北部の備瀬集落や伊江島、
伊平屋島、伊是名島などであるが、そこでは漁師はもちろんのこと、
仕事を休んでまで漁に出る人もいる。スク襲来に、男たちはみな沸き立つのである。

 その「スクまい」の方法というのが、かなり原始的。
 男たちは網をかつぎ、次々と海へと飛び込む。
 そして叫びながら泳いでスクを追い込み、網でスクを囲い込むのだ。
(グルクンの伝統漁法「アギャー」に似ている)

 「スクまい」はチームで行われるため、息を合すことが重要な漁法である。
 一人でも失敗すると逃がしてしまうことになるのだ。

 スク水揚げ時(特に旧の6月1日前後の)には、沖縄のニュース番組や新聞では、
必ず取り上げられる。それは本格的な夏の訪れを実感できる、夏の風物詩のひとつなのだ。
 そして私は旨いものが食えると、ムフフ顔になるニュースでもあるのです。

 ちなみに「スクまい」の時期に海が荒れると、
大漁になるという言い伝えがあり「スク荒り」と呼ばれている。

スクを食べる時の注意点

 スクを食べる場合は、頭から食べなければならない。
 反対のしっぽ側から食べてしまうと、
そのトゲで口中を刺してしまうからだ。

 たまにスクガラスをパスタにそのまま入れてしまっている人を
見かけたりするが、味はともかく、危険なのである。

 アンチョビ代わりにスクガラスを利用するのはわかるのだが、
その場合みじんにした方がいい。

 もしも、スクガラスを飾りとして見せたいのならば、
スクガラスを使ったパスタの上に、塩抜きした
スクをから揚げにしてのせる方がいいと思うぞ。

スクガラスは一度は味わってほしい珍味

 スクガラスは、確かに万人向けとはいえないが、
一度は食べて欲しい珍味である。

 泡盛との相性がいいから、ぜひ試してみてよ。
 また、料理に使って、成功したら教えてね。


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島豆腐と豆腐の違いは?木綿豆腐みたいなものでしょ?

既に、「チャンプルー」は全国区となって久しいが、
島豆腐はまだ知らないという人もいるかもしれない。

名前は知っているが、食べたことがない人も多いだろう。

木綿豆腐みたいなもんでしょ?なんて思っているのならば、
島豆腐を食べてみて、島豆腐に謝ってほしい。
いや、自分から謝るはずだ。今まで私は何を食べていたのかと。

あなたがもしも、島豆腐を使って作った、
チャンプルーを食べたことがないのならば、
あなたはまだ「本当のチャンプルー」を食べていないことに等しい。

島豆腐を使わないチャンプルーは、
豆腐の入っていない麻婆豆腐のようなものなのだ。
 
…いや、言い過ぎたが、しかし確かに、
それほど島豆腐の存在は大きいのである。

自称「豆腐好き」の人間が、沖縄で「島豆腐」を食べてからというもの、
内地の豆腐を食べると、味気なく感じるようになった…なんて人もいるくらいだ。

島豆腐は、その味や香り、食感、全てにおいて、
豆腐の王様」とも呼べる風格さえ感じさせる存在なのである。


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島豆腐と普通の豆腐何が違う?

島豆腐とは、沖縄の豆腐のことで、木綿豆腐よりも固い
だからこそ、チャンプルーのように炒めても形を崩さないのだ。

豆腐チャンプルー

また、島豆腐は「でかい」!
一丁の大きさが、内地の豆腐の3倍以上もあり、
なんと重さは約800グラムとずっしり重い。

…というか、本土の豆腐と違い、チャンプルーやンブシーなどといった、
豆腐をたくさん使う料理が多いので、そのくらいの大きさが必要なのである。

SUPERSIMADOUHUそして、沖縄のスーパ―の豆腐コーナーを見て県外の方が驚くのが、あちこーこー(あったかいまま)の島豆腐が、ビニール袋に入れられて売られていることだろう。本土の豆腐のように、冷やされたものが水に入れられて売られてはいない。

本土の豆腐の場合はアク抜きの意味もあるのだが、水につけてしまうと旨味や香りも抜けてしまうし、水っぽくもなる。あったかいまま水にさらさないという販売方法も、島豆腐の旨さの理由のひとつなのだろう。

アチコーコー豆腐販売時間

スーパーには豆腐の入荷する時間を表示しているところも多く、
その時間にあわせて島豆腐を買いに行く人も多い。

豆腐に触れて、あったかいものを買っていくというのも、沖縄ならでは。
 

スーパーの島豆腐コーナー
こんな感じで売られている。右側が「ゆし豆腐」。おぼろ豆腐みたいなものだけど、汁にすると超うまいよ!

ゆし豆腐の画像
ゆし豆腐

あちこーこーだから袋は開けたまま
あちこーこーだから袋は開けたまま販売されている

 

島豆腐はきめは粗く粗野な風貌だが、味は実に深い。
内地の豆腐に比べれば、大豆の風味が圧倒的に強いのだ。

何も、特別な大豆を使って作っているというわけではない。
それでは何が違うのかというと、その作り方なのである。

生絞り法と煮取り法

内地の豆腐を作る場合には、生呉汁と呼ばれる、水につけた大豆を挽いた汁を、
煮てから濾す「煮とり法」という製造方法なのだが、

島豆腐の場合は、生呉汁を生のまま濾して、その後に煮るという
生絞り法」と呼ばれる製造方法で作られている。

(まあ、なんだかよくわからなくても、
「生絞り」って聞いただけで、うまそうじゃないか!?)

さらに、濾した汁をニガリを加えて固めるわけだが、
昔ながらの島豆腐の作り方としては、海水を入れて固めていた。

湯気があがる豆乳に海水を加えて煮ていくと、
天然のニガリ成分によって、段々と固まってふわふわと浮かんでくる。

それを木箱に入れて、重しをしながら水分を切って固めていくわけだ。

(昔の島豆腐は、現在よりも固いものが多く、
紐で縛って運べたというから驚きだ!)

内地の豆腐との圧倒的な違いは、上に書いたようにその作り方にあるのだが、
実は、内地でも昔は「生絞り法」で豆腐が作られていたそうである。

しかし、「煮とり法」で作った方が、
腐りにくく歩留まり」よく作れるため、
内地では「煮取り法」が一般的になっていったようだ。

つまり、沖縄の島豆腐は、
生産効率を無視した昔ながらの製法で作られているのだ。

まあ、このあたりは「生絞り」のほうがおいしいから!というわけではなく、
創意工夫がないというか、生産性をあげる取組がなされてこなかった…

というのが本当のところなのもしれないが、
今こうしておいしい島豆腐が食べられるということには、
感謝しなければならないかもしれないだろう。


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島豆腐は栄養も満点!!

内地の豆腐に比べて、味も風味も濃い島豆腐であるが、
栄養もぎっしり詰まっているのである。

タンパク質は、本土の豆腐の約1.3倍。 カルシウムはほぼ同じだが、
リンや鉄、ナトリウム、カリウムなどといったミネラルや、
ビタミンB1、B2も島豆腐の方が多く含まれているのである。

ちなみに沖縄県の豆腐個人消費量は、なんと全国平均の約2倍だ。
島豆腐が沖縄の食文化を語る上で、欠かせない食材であることは間違いない。
そして、島豆腐が沖縄の健康長寿を支えているのも間違いない。

一番おいしいのはできたてあちこーこー!

現在では、島豆腐のパック販売や真空パック商品も増えたため、
県外でも、島豆腐を取り寄せることができるようになった。

しかしこういっては悪いが、私は
いまだパックものの島豆腐で、おいしいものにあたったことがない。

やはり島豆腐は、出来立てのあちこーこーのまま食べる
というのが、一番おいしい食べ方なのだ。

 

沖縄の人は、「どこどこの豆腐がおいしい!」と、
それぞれお気に入りの豆腐屋があったりする。

私のお気に入りは「繁多川豆腐」なんだけれども、
今どうしても食べてみたいのは、宮古島の「石嶺とうふ店」である。

仲村清司氏の「沖縄うまいもん図鑑」で紹介されていたのだが、
たかが1丁200円の豆腐のために宮古島に飛んでいきたくなるほどだ。

 
島豆腐が好きすぎて、外国まで島豆腐のルーツなどを探しに出かけた人もいる。
毎日どこかの飲み屋で飲み歩いている、宮里千里さんだ。
 


この本の著者の宮里千里さんは、
自他ともに認める「島豆腐じょーぐー(好んでよく食べる人)」で、
飲み屋で見かける度に、いつも「島豆腐」を食べている。

私は千里さん以上に、島豆腐を好きな人を知らない。

食べ方は、あったかいままのやっこ。
薬味と醤油で食べている。
これが一番おいしいのだそう。

 

はてさて、いろいろなことを書いたが、
島豆腐と豆腐の違いは、食べると一発でわかるのである。

わかるというのは、「違い」がわかるというよりも、
比べてはいけないものなのだ…ということがわかるのだ。

別物だ。

豆腐には豆腐のおいしさがあるし、
島豆腐には島豆腐のおいしさがある。

 
もしも島豆腐を食べたことがないのなら、
ぜひ作りたてのあちこーこーを食べて欲しいのである。

何もつけずに、まずはそのままを。


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