沖縄には「スクガラス」なる保存食がある。
「スク」とはエーグァーの稚魚の呼び名である。
エーグァーとは、アイゴの沖縄での方言名だ。
![エーグァーすく](https://i0.wp.com/agije.com/jouhou/wp-content/uploads/2014/10/015739.jpg?resize=580%2C298&ssl=1)
出典:WEB 魚図鑑 「エーグァー」
「カラス」というのは、塩漬けのこと。
つまり「スクガラス」というのは、
スクの塩漬けのことなのである。
ちなみに「琉球ガラス」はガラスだ…
スクガラスは、瓶に漬け汁とともに入れられ販売されている。
那覇市牧志の公設市場近くのお店などでは、このスクガラスを、瓶に頭を下側に向けてきれいに並べ詰められたものが販売されている。そのようなところでは昔から、小さい瓶は500円、大きい瓶は1000円と値段が変わらない。
昔は、空き瓶を再利用して詰められたものが多かった(インスタントコーヒーの空き瓶など)。
スーパーで売られているもののほうが若干安いのだが、それらは漬け汁の中にスクが浮かんでいるだけ。綺麗に並べられてはいない。
大きい瓶には、500匹以上ものスクが整然と並んでいるのだが、
どのようにこのスクを詰めているかというと、なんと手作業なのである。
あの小さなスクを、箸で一匹づつ同じ向きで詰めていくのだ。
はじめは、瓶の内側のガラス部分に、スクを
くっつけるようにして並べていき、次にその内側部分に
詰めていく…というような作業を永延と繰り返すのである。
外側の見える部分だけきれいに並べているわけではない。
瓶の中のスク全てが、頭を下にして整列しているのである。
そこに手抜きは一切なしだ!
私は以前一度、瓶の中に入っているスクの数を数えたことがあるのだが、面倒くさくなって500匹で数えるのを止めてしまった。
数えているだけで、気が狂いそうになったのに、それを整然と向きを揃えて並べていく作業は、考えただけで恐ろしいのである…
きっと、並べる作業は、写経などのように、なんらかのご利益があるに違いない。
そうでなければ、あのように全く儲けの合わない作業をできるわけがない!
…なんてバカことを考えるほど、きれいに詰められているのだ。
ぜひ、有難く一匹一匹を味わってほしい。
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スクガラスの食べ方
スクガラスの一番代表的な食べ方といえば、スクガラス豆腐だろう。
沖縄に旅行に来たことがある方なら、きっと知っているに違いない。
島豆腐の上に、スクがのっているアレである。
スクガラス豆腐を発案したのは、琉球最後の国王「尚泰」の四男である「尚順」だそうだ。尚順は沖縄に様々な利益をもたらした人物である。1893年に「琉球新報」を創刊し、「沖縄銀行」を設立し、パイナップルなどを沖縄に導入したのも、この「尚順」なのである。尚順は後年、「驚異の美食家」「グルメ男爵」などと呼ばれ、泡盛にも造詣が深かった。だからこそ、泡盛に抜群に合うこの「スクガラス豆腐」なるものを思いついたのかもしれない。
しかしね、毎日スクガラス豆腐を食べるわけでもないだろうし、一般家庭でスクガラスを買ってきても、なかなか無くならないわけさ。だって500匹以上入ってるんだよ?居酒屋や料理屋じゃないと、使いきれないよ、とても。
(きれいに使っていれば、長いこと持つし、
逆に発酵が進んでおいしくなるんだけどね。)
だから、なんか他の料理に使えないかな?
なんて考える人って、けっこう多いと思う。
でもね、意外といろいろ使えたりするよ。
まあ、わざわざスクガラスを使う必要を感じないけど、
早く使い切りたいなら、塩辛やアンチョビを
イメージして料理に使えば、たいがい問題ない。
例えば、ジャガイモの蒸したものの上にスクガラス!なんて食べ方もありなのだ。(実際に蒸かしたサツマイモと一緒に食べたりもします。蒸かしたジャガイモの上に塩辛をのせて食べるみたいな感じだね。)
ただし、スクガラスの塩気は確認すること。
イカなど他の塩辛と比べると、かなり塩がきいているためしょっぱいんだな。
でね、スクは瓶の中で発酵して、独特のうまみを醸し出すようになる。
三か月くらいだと浅漬け、半年以上経ったものは
完熟状態となって、さらに風味をましてくるわけ。
スクを漬けている汁は、要するに魚醤
(しょっつる、ナンプラー、ニョクマムなど)なんで、
料理の隠し味として使っても当然おいしいのだ。
(魚醤としてつかうなら、長いことつけているものの方がいいはず)
魚醤の場合は、魚の重量の2割程度の塩を加え、
放置しどろどろに溶けたら濾すんだけど、スクガラスの
場合は魚を食べることを目的に保存されているわけさ。
(スクガラスの場合は、スクの重量の3割程度の塩を加えるみたい)
しかしだからといって、スクガラスの漬け汁を
使わないのももったいないでしょ。
スクガラスの旨味が十分に染み込んだ汁を、チャンプルーや
煮物の隠し調味料として使ってもうまいんだな、これが。
漬け汁だけではなく、スクガラスもみじんにすると、色んな
料理にもつかえるんだけど、トゲや骨があるから、その辺は注意してね。
例えばタイ料理に、青いパパイヤを使った
激辛サラダ「ソムタム」ってあるでしょ?
細かく潰したスクガラスを使って、ソムタムを作ってもうまかったよ!
沖縄では青いパパイヤを野菜として昔から食べてきたから、
「スクガラスソムタム」なんてメニューがあってもいいと思うんだけどな。
※スクガラスを瓶から取り出すときには、綺麗な箸で取り出すこと!手や汚れた箸を突っ込むと、そこから菌が繁殖してしまい、いたみやすくなってしまいます。
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さらに手間と時間をかけてスクガラスの漬け汁を最高の調味料にする方法!
米を水に2時間くらいつけて、すり鉢でつぶしたものを瓶に入れ、
スクガラスの漬け汁と泡盛を加え発酵させます。
それだけで風味が出せるんですが、
半年、一年と置くほど、風味はどんどん良くなります。
最低、3か月程度は置いた方がいいでしょう。
漬け汁は、スクガラスのエキスがたっぷり含まれていますから、
使わずに捨ててしまうのはもったいないですね。
栄養も豊富ですし、調味料としても
最高なものが出来上がります。
化学調味料も使わずに、料理に大変奥深い味が出せるのでお勧め。
生スクがうまい!
スクガラスとして食べることが多いスクだけれど、実は、生なら刺身でも食べられる。昔は冷蔵技術が発達していなかったから、いたみやすいスクを生で食べられる地域というのは限られていたのだけれど、最近は獲ったばかりのスクがスーパーにも並ぶようになった。
「スクの刺身って、あんなに小さいものを、三枚おろしにするの?」
なんて疑問を持つ方もいそうだが、そうではない。
頭から一匹丸ごとを食べるのである。
豪快に骨ごとバリバリ食べちゃうのだ。
さっと水洗いして、酢醤油などで食べる。
(沖縄では酢は「マルコメ酢」が使われることが多い)
さらに島唐辛子をつぶし混ぜると、もう最高!
photo by yamaunhi
また生のスクの「から揚げ」もうまいんだ。
スクガラスはさすがに塩辛いので、から揚げには
向かないのだけれど、生のスクガラスの唐揚げはうまい!
シークァーサーなんか絞っちゃうと、もう最高だね!
生のスクは季節限定のものだから、スーパーで見かけたら、
次はなかなか食べることが出来ないと思って、ゲットすることをお勧めする。
スクの漁「スクまい」
スクは、スクガラスにするにしても、生で食べるにしても、
「餌」となる藻を食べる前のものでなければならない。
なぜなら、藻を食べてしまったスクは、お腹が臭くなってしまうのだ。
スクは生まれた時は外洋にいるのだが、
その時にはプランクトンを食べている。
しかし、いったんリーフに入ると、浅瀬に生えている
藻を食べるようになるのである(生まれてから3日後あたりと言われている)。
だから、スクの影が見えたという報告があれば、
スクがリーフに入ってくる前に、男たちは「スクまい」(漁)
に急いで取り掛かり、大軍を一網打尽にするのだ。
生のスクが食べられるのが期間限定なのは、
水揚げされるのは夏だけだから。
スクは不思議なことに、旧暦の6月1日、7月1日、8月1日前後の大潮に近い日に
群れをなして押し寄せてくるのだが、それっきりなのだ。
スクの大群が押し寄せる様子は目でも確認できる。
銀色に染まった塊がまっしぐらに海岸へ向かう様子は圧巻なのである。
![スクの大群](https://i0.wp.com/agije.com/jouhou/wp-content/uploads/2014/10/sukutaigunn24487195.jpg?resize=580%2C435&ssl=1)
「スクまい」が盛んなのは、沖縄本島北部の備瀬集落や伊江島、
伊平屋島、伊是名島などであるが、そこでは漁師はもちろんのこと、
仕事を休んでまで漁に出る人もいる。スク襲来に、男たちはみな沸き立つのである。
その「スクまい」の方法というのが、かなり原始的。
男たちは網をかつぎ、次々と海へと飛び込む。
そして叫びながら泳いでスクを追い込み、網でスクを囲い込むのだ。
(グルクンの伝統漁法「アギャー」に似ている)
「スクまい」はチームで行われるため、息を合すことが重要な漁法である。
一人でも失敗すると逃がしてしまうことになるのだ。
スク水揚げ時(特に旧の6月1日前後の)には、沖縄のニュース番組や新聞では、
必ず取り上げられる。それは本格的な夏の訪れを実感できる、夏の風物詩のひとつなのだ。
そして私は旨いものが食えると、ムフフ顔になるニュースでもあるのです。
ちなみに「スクまい」の時期に海が荒れると、
大漁になるという言い伝えがあり「スク荒り」と呼ばれている。
スクを食べる時の注意点
スクを食べる場合は、頭から食べなければならない。
反対のしっぽ側から食べてしまうと、
そのトゲで口中を刺してしまうからだ。
たまにスクガラスをパスタにそのまま入れてしまっている人を
見かけたりするが、味はともかく、危険なのである。
アンチョビ代わりにスクガラスを利用するのはわかるのだが、
その場合みじんにした方がいい。
もしも、スクガラスを飾りとして見せたいのならば、
スクガラスを使ったパスタの上に、塩抜きした
スクをから揚げにしてのせる方がいいと思うぞ。
スクガラスは一度は味わってほしい珍味
スクガラスは、確かに万人向けとはいえないが、
一度は食べて欲しい珍味である。
泡盛との相性がいいから、ぜひ試してみてよ。
また、料理に使って、成功したら教えてね。
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