生物兵器としても、
軍事研究されたことのある炭疽菌(たんそきん)。
アメリカで起きた炭疽菌事件は、
実際に死者も出した、生物テロとして記憶に新しい。
実は日本でも、過去に炭疽菌をばらまかれたことがあるんだ。
炭疽菌とは何か?
炭疽菌に感染すると、どうなるのか?
炭疽菌は、何故テロに使われたのか?
もしもの時のために、
知っておかなければならない、
炭疽菌の知識について、詳しく解説するよ。
炭疽菌とは
炭疽菌とは、炭疽症(たんそしょう)という、
感染症を引き起こす細菌で、
数十種類の種類が、存在するといわれているよ。
長さ数ミクロン程度の、細長い形をした大型の細菌で、
通常、土の中にかたい殻に覆われた、
「芽胞」(がほう)という状態で存在しているんだ。
通常炭疽菌に感染するのは、牛や馬、豚などの家畜で、
人間に感染するケースがあったとしても、
それは家畜からの感染がほとんど。
世界中では、毎年約2000人程度の感染者が発生しているんだけど、
その感染者は、養毛業者や家畜飼育者など、
家畜に触れる機会の多い職業の人達ばかりだ。
炭疽症に感染した動物に接触(せっしょく)したり、
汚染されているものを食べたりした場合に、
炭疽菌に感染する可能性があるんだ。
実は、炭疽症は、人から人への感染はないし、
自然にある炭疽菌に、感染することも稀(まれ)…
それなら、炭疽菌を、
それほど心配することはないんじゃないの?
…なんて思うかもしれないね。
それじゃあ、何故、
炭疽菌を使ったテロが実際に起きたんだろう
炭疽症の症状
炭疽症に感染すると、どうなるかっていう話なんだけど…
炭疽症には3つ種類があって、
感染経路(かんせんけいろ)によって、症状が変わってくるんだよ。
皮膚炭疽症
皮膚に症状が出るものは、
皮膚炭疽症っていう感染症なんだ。
炭疽菌が、
人間の皮膚の傷口から侵入した場合に、感染する。
感染したのちに治療を受けなかったら、
その致死率は、20~25%ぐらいだって言われているんだよ。
炭疽の『疽』は腫れ物(はれもの)っていう意味。
皮膚に炭疽の症状が出た場合は、
皮膚に炭のような、腫れ物ができちゃうんだ。
その部分は、細胞が死んでしまっているので、
体中に炭疽が広がってしまえば、命にもかかわってくる。
画像:http://www.uwyo.edu/vetsci/undergraduates/courses/patb_4110/2009_lectures/14_sudden_death/html/class_notes.htm
腸炭疽症
腸などの内臓に症状が出るものは腸炭疽症。
炭疽菌に汚染された食品や、
飲み物を摂取した時に感染するんだ。
激しい下痢や腹痛、リンパ節炎や吐血なんかが症状として現れて、
25~60%が死んじゃうって言われている。
肺炭疽症
そして、
炭疽症のなかで一番怖いのが、肺炭疽症。
炭疽菌の『芽胞(がほう)』を肺に吸引してしまうと、
呼吸困難や昏睡に陥ってしまい、
ほぼ100%に近い人が死ぬと言われているんだ。
ただ、肺炭疽に関しては、
自然界において人間が感染するのは、
極めて稀なケースでもあるんだ。
炭疽症は怖くない?
上記の炭疽症の死亡率は、
アメリカ疾病管理センターの発表したもの。
実はその死亡率は、
炭疽菌感染後に、抗生物質を投与せず、
そのまま、症状が悪化した場合のデーターなんだ。
抗生物質が登場した1929年以降、
皮膚炭疽や腸炭疽で、死亡した人はほとんどいない。
自然界に存在する炭疽菌は、
人から人へ感染しないというだけでなく、
病原菌の中でも、非常に弱い菌でもあるんだ。
もしも、炭疽菌が体内に侵入したとしても、
皮膚や腸に存在する、大量の免疫細胞が、
炭疽菌を死滅させるから、大事に至ることは少ない。
また、発病したとしても、
抗生物質の投与などで、炭疽菌を死滅することができるんだ。
…な~んだ!それならやっぱり、
炭疽菌は、ちっとも怖くなんかないじゃないか!!
ますます、炭疽菌が何故、テロに使われたのか、
疑問になってきたよね!?
炭疽感染予防法は?
ワクチンは、アメリカにあるにはあるんだけど、
副作用の可能性も高いうえ、
何度も摂取しなければいけないため、
日本ではあまり推奨されていないみたいだ。
炭疽に感染しないために気を付けることは、
炭疽菌に…
- 触れない
- 食べない
- 近づかない
…ということ。
炭疽菌感染者が出た場合、
感染したと思われる場所に、
近づかないことが、一番の予防法だ。
炭疽症の治療方法は?
炭疽症は、抗生物質で治療する。
手遅れでさえなければ、治せる感染症だから、
何よりも、早く治療することが重要。
ただ、皮膚炭疽症ならば、
見た目にわかりやすいから、気がつきやすいんだけれど、
腸炭疽症や肺炭疽症の場合、
症状だけでは、炭疽症と気が付きにくく、
その内に重症化して、手遅れになってしまうこともある。
特に肺炭疽症は、発症してから、
24~36時間以内に死亡する確率が高いんだ。
しかも、症状が重くなってからでは、抗生物質を投与しても、
90%の確率で死亡するという、危険な感染症なんだ。
…なんとなく、わかってきたかな?
そう、炭疽菌テロは、
肺炭疽症への感染を狙ったものなんだ。
ただし、肺炭疽症への感染は、
自然な状況下では、稀だと書いたよね。
実は、10ミリグラムの炭疽菌を体内に入れると、
人間は炭疽症に感染すると言われている。
10ミリグラムというのは、
米粒の約半分ほどの量だ。
自然な状況下では、この量の炭疽菌を、
肺に吸い込んでしまうことは、少ない。
しかし、炭疽菌を大量にまき散らすことができれば、
人間に感染させることができるわけなんだ。
炭疽菌の”芽胞”の恐ろしい生命力
炭疽菌は芽胞形成菌(がほうけいせいきん)、
という細菌の仲間なんだ。
納豆菌や、食中毒の起因菌の原因となる、
ボツリヌス菌なんかも、同じ芽胞形成菌の仲間だよ。
芽胞形成菌は、生育環境が悪化したりすると、
熱や乾燥に強い芽胞殼を作って、休眠状態になる。
活動をしないから、
見た目は死んだようになるけど、死んじゃいない。
栄養をとらなくても、
何十年だってその状態で存在できるんだ。
そして、周りの環境が、生存に適した状態に戻ると、
水分を取り込み、再び増殖をし始めるという、
そりゃあ、恐ろしいほどの生命力を持つんだよ。
実は、この芽胞状態の炭疽菌が、
実際に生物テロに使われるものなんだ。
炭疽菌を使ったテロ
2001年アメリカで、
炭疽菌を使った、生物テロがあったことを知っているかい?
郵便封筒の中に炭疽菌を入れて、
大手テレビ局や出版社、上院議員に対し送りつけたんだ。
この事件による炭疽菌の感染によって、
5名もの方が、肺炭疽を発症し死亡、
そして17名が負傷してしまった。
この事件は、同時多発テロ事件の7日後に発生したこともあって、
アメリカ全土が、パニック状態になってしまったほどの事件なんだ。
犯人として、FBIが目をつけていた人物が、
自殺しちゃったから、真相は闇だ。
FBIは、彼が犯人であると結論付けているけどね。
炭疽菌が生物テロに使われる理由
なんで犯人が炭疽菌を選んだかっていうと、
比較的入手しやすく、致死率が高いからだろうね。
犯人は、さらに芽胞状態の炭疽菌を小さくし、
飛散しやすい状態に加工してもいたんだ。
飛散しやすいということは、
広範囲に広がるわけだから、多くの人間が、
肺炭疽に感染する可能性が高まるからね。
芽胞(がほう)を吸い込んで、肺炭疽症に感染すると、
すぐに治療しなければ、そのほとんどが死んじゃうってんだから、
テロとして効果は抜群さ。
しかも、炭疽症を疑って検査をしなければ、
見のがす可能性も高いときてる。
だって、症状もはじめは『風邪のよう』だからね。
気がつかずに、症状が急変したころには、
既に手遅れの状態になっているんだ。
発病して初めて、感染がわかるというところが、
肺炭疽感染を狙った、炭疽菌テロの怖いところなんだ。
軍事研究開発もされていた炭疽菌
炭疽菌は、かつては、米ソやイラクなどの国が、生物兵器として、
開発研究に取り組んでいたこともある。
ソ連なんか、炭疽菌の”芽胞(がほう)”を量産して、
ミサイルに搭載していた…っていうんだから、
使われる可能性もあったと考えると、ゾッとするね。
炭疽菌は培養しやすく、且つ増殖力が強いから、
量産に、時間もお金もかからない。
また、炭疽菌を”芽胞”の状態にしてしまえば、
そのままの状態で、数十年も生きることができるし、
乾かして粉末状にすれば、持ち運ぶことも可能だから、
生物兵器に適しているといえるだろうね。
肺炭疽感染を知る方法
肺炭疽の場合、重要な判断基準になるのが、唯一、
「炭疽菌の感染場所に行ったかどうか」ということだけだ。
もしも、炭疽症が発生して、
その感染地域だとされる場所に行ったのなら、
- 公立病院
- 感染症指定医療機関
- 都や区の保険所
において、
早急に検査してもらうことが、大切だ。
肺炭疽を発病していたとしても、初期であれば、
抗生物質によって、生存率は高まると言われているからね。
日本でも炭疽菌が散布されていた!!
アメリカでの炭疽菌事件の後、日本でも、
手口を真似た事件が、頻発したことを知っているかい?
そのどれもが、本物の炭疽菌が使われていたものは無く、
悪質な嫌がらせや、恐喝目的だったんだけど、
実は日本国内でも、アメリカの炭疽菌事件が起こるずっと前に、
本物の炭疽菌を実際に散布したという例があるんだよ。
そんなことをしたのは、あのサリン事件を起こした、
宗教団体の『オウム』なんだ。
オウムは、国会議事堂や皇居周辺などで、
何度も炭疽菌を散布していたことがわかっている。
ただ、そのどれもが失敗であったために、
実害はでなかったんだ。
でもこれは、日本でも炭疽菌によるテロが、
あり得るということでもあるよね?
炭疽菌テロから身を守るためのまとめ
テロ行為は、何らかの目的をもって行われるために、
マスコミや、政府関係を狙ったものが多い。
一般の家庭に、炭疽菌の入った郵便物が送られてくることは、
まずないだろうが、もしもの場合の対処法について考えてみよう。
怪しい郵便物が送られてきたら、
触れずに通報することが大切だ。
特に、見ず知らずの人から、封筒が届いたり、
奇妙な形に膨らんでいる封筒などには、注意が必要。
できれば、濡らしたハンカチやタオルなどで、
炭疽菌を吸い込まないように、鼻と口をふさぐといい。
直接手で触れないように、ビニール手袋などをはめ、
郵便物をビニールなどに2重3重にして、中に入れておく。
もし、怖ければ触らなくていい。
近づかないことが大切だ。
そして警察などに、連絡する。
もしも仮に、封筒をあけてしまって、
異物に気がついたとしても、
決して慌てて、投げ出してしまわないことだ。
異物が、空気中に飛散してしまい、
被害を大きくしてしまう可能性があるからだ。
口や鼻から吸い込まないようにして、
できるだけ、そのものから離れる。
ただし、あなたはその部屋から移動してはいけない。
これもまた、被害を拡大してしまう恐れがあるからだ…
仮に、炭疽症を発症したとしても、
抗生物質を投与すれば、完治する。
慌てずに対応すれば、問題はない。
さらに、被害を拡大させないことを、
意識できれば、パーフェクトな対応だ!
その、”もしも”の時がないことを祈って…