似類補類|沖縄で豚が丸ごと食べられてきた理由

沖縄料理に欠かせない豚肉。沖縄では「豚は”鳴き声”以外は全部食べる」と言われる。

沖縄では豚を、脚・足・耳・面皮・腸・胃・心臓・腎臓さらには「血」までも、無駄にせず料理に使う。豚一頭を余すところなく巧みに調理するのである。
 

沖縄の市場で・豚の各部位が販売されている
沖縄の市場では豚の各所が販売されている

 

東南アジアや中国との貿易・交流を通じて肉食に偏見がなかったことや、四つ足のものを食べることを禁じる仏教的な規制がなかったことが、沖縄で肉食文化が古くから根付いている理由なのだろう。
 


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ところで、沖縄ではいつごろから豚肉を食べるようになったのだろうか?

伊江島の貝塚(弥生時代後期と推定される)から豚の骨が発見されている。なので、少なくとも約2000年前には豚を食べていた。
 

…といっても、当時の人間が、豚を飼っていたのかどうかもわからない。豚を頻繁に食べていたのかどうかもわからない。ただ、豚を食べていた形跡があるということなんだけれど。
 

あぐー沖縄島豚の画像
2000年前の豚が、沖縄の在来豚といわれている「アグー」につながる豚なのか、それとも1392年に輸入された豚がそうなのか…画像は現在の「アグー」

 
「中国からの帰化人によって、1392年に沖縄に豚がはじめて輸入された。」と文献に書かれているところを見ると、それまで豚は飼育されていなかったようにも思える。(あるいはごく稀だったのか。)

豚が輸入された当時の沖縄は、食糧難であり農家は食べるものにも事欠く状態だったようだ。なので養豚は普及しなかったそう。豚に餌をやるくらいなら自分らで食うわっ!という状況だったんだろう。
 

豚の飼育が盛んになるのはそれから約200年も後になる。1605年に中国の福建省から「芋」が導入され普及したからである。

芋は台風にも負けず、痩せた土地で雨が少なくとも収穫することができるという非常に貴重な作物だった。 また芋だけでなく、茎や葉も食べられたし、余ったそれらを餌にすることで豚を養うことができるようになったのである。豚は免疫力が強く、環境への適応性にも富んでいるため飼育が容易であることも、沖縄で豚の飼育が盛んになった理由だったであろう。

こうして必然的に、豚と芋は沖縄の重要な食料として位置づいていったのである。豚も芋も当時の沖縄の食糧難をずいぶんと救ったことは想像に難くない。

さて、豚の飼育が盛んになったからといって、日常的に肉が食べられるようになったわけではない。なにせ、第二次世界大戦以前の沖縄では、肉を食べるのは年にせいぜい数回程度だったというのだから、豚肉料理は「ハレの日」の料理だったのだ。

だからこそ、その貴重な豚を「鳴き声以外は全部食べる」ようになったのだろう。そして調理技術が発達していったのだろう。

笹森儀助という人が1893(明治26)年に沖縄を訪れ、豚をさばく様子を見学した際のことを『南嶋探験 』において、こう書き残している。

午前6時、屠殺場に至り、豚を屠るを見る。其手術敏捷、驚くに堪へたり。尺余りの刃一丁、敷板四尺位の半切桶あるのみ。先つ豚の四足を束ね喉を切り、出血せしむ…夫より半切桶に入れ、熱湯を灌き毛を刃にて刷り、然る後、肉骨分解す。總て三十分にて足る。習性の然らしむるところと雖とも、肉食社会の洋人も一見して、その技術に舌を巻くと云ふ…

 
古くから培われてきた知識や技術のすばらしさを感じさせる描写だ。
 
さて、沖縄では「豚は鳴き声以外全部食べる」というが、本当に全部食べるのだろうか?

いや、じつはそれは正確ではない。「鳴き声」以外にも「爪」や「リンパ」など、食べないところもあるのだ。しかし、それら以外は内臓はもちろんのこと「血」、脳みそや目玉などを含め、全てを食べてきたのである。(血は「チーイリチャー」という炒め物に使う。脳みそや目玉は豚の丸焼きの時にお目にかかれるだろう。目玉は生で食べるという人もいるそうだ。)

一頭まるまるを食べるということは、豚が貴重だったからというだけではない。沖縄には「似類補類」という考え方が根付いているのである。「似類補類」とは中国の漢方の考え方の一つなのであるが、つまり「類を持って類を補う」というものだ。

頭が痛かったら頭を食べる。肝臓の調子が悪ければ、肝臓を食べるというように。あるいは形の似たもの、例えば脳の形に似た「クルミ」を食べると脳の活性化につながる…などといった考え方である。

沖縄では、

「疲れやだるさがあるのなら、チム(肝臓)のシンジ(煎じもの)」
「足腰の具合が悪いなら、アシティビチ(豚足)を食べる」
「泌尿器系の調子が悪いなら、マミー(腎臓)とタキー(すい臓)のシンジ」
「呼吸器系の調子が悪いなら、フク(肺)のシンジ」

を食すと良いと言われている。

体への効果だけではない。これらはすべて美味しいのだ。体にいいものというのは、だいたいがまずいものだというイメージがあるが、これらは全て素晴らしく美味いのだ。

つまり、沖縄で豚が無駄なく食べられてきた理由とは、「もったいない」からであり、「似類補類」の考え方が根付いているからであり、「おいしい」からなのである。
 


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テビチとチマグの違いは!?3秒でわかります

スーパーのチラシを見ていると、
テビチ」と「チマグ」が安売りされていた。

 

ん?

 

テビチとチマグって何が違うの?

 

…恥ずかしながら、テビチとチマグの
違いがわからなかった私。

 

同僚に聞いてみても、
誰もはっきりとわからないようだ。

 

…ってことで、
知り合いの精肉店の人に聞いてみました。


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「てびち」と「ちまぐ」の違い

 
「てびち」は、沖縄県民でなくとも、
名前を聞いたことがある人も多いかもしれない。

豚足のことである。

しかし同じ豚足でも、
「てびち」と「ちまぐ」というのがある。

「ちまぐ」は聞いたことのない人も多いかも。

沖縄の人でも「てびち」と「ちまぐ」の違いを
よく知らない人も多いのだから。

それでは、いったいこの両者はどう違うのか?
 

ま、画像を見て頂けると、
わかりやすい。

というか、一発でわかります。

tebiti_53495410

 

「ちまぐ」は、足先の部分。

「てびち」は、足先も含めた
足全体の部分。

 

icebain5

 

てびち=ちまぐ+アイスバイン

ちまぐ=足先

アイスバイン=すね肉

 

…というわけです。

つまり、「ちまぐ」は足先だけ。
「てびち」は足先を含めた足全体。

よって、「ちまぐ」と「てびち」と
別けて売られている場合
には、

 

ちまぐ=足先
てびち=すね肉

 

だと考えていいでしょう。

ちなみに、ちまぐの方が安いです。
骨と皮だけですからね。

「すね肉」の方が、赤身もついていますし、
骨が外しやすく食べやすいですよ。

 

アイスバインとは
「バイン」とは、ドイツ語で「すね肉」のこと。

「アイスバイン」はドイツの家庭料理のひとつで、
塩漬けにされた豚すね肉の煮込みです。

このあたりのことから、もしかすると
豚肉のすね肉のことを「アイスバイン」と
呼ぶことになったのかもしれません。

もしかすると、沖縄の食肉業界
だけの呼び方かもしれませんが。

「アイスバイン」の「アイス」には、

  • 豚のすねの骨をアイススケートのエッジとして利用したから
  • ゼラチン質が冷えて固まった状態が氷のようだから

 
などという説があるそうです。

ちなみに、零下8度以下で氷結したブドウの実から作られる
「氷結摘み」最高級ワイン「アイスヴァイン」とは別ものです。

 

沖縄でのてびち料理

ちまぐもてびちも、そのおいしさは
コラーゲンたっぷりの皮にあります。

しかも上質なコラーゲンの塊ですから、
豚足を食べるのを躊躇する女性にこそ、
食べて頂きたかったりするわけです。

また、そのうまみは、
骨付きでなければなりません。

その見た目が苦手だという人もいるでしょうが、
骨付き豚足だからこそ、うまいんです。

 

沖縄では、てびちは「おでん」や、
煮つけ等に、おもに使われています。

 
沖縄の豚の角煮「ラフテー」は、
醤油や砂糖、味醂などで味付けしますが、

(醤油ではなく、味噌の場合も)

てびちは、塩で味付け
されることが多いです。

やわらか~く仕上げた「てびち煮」は、
最高のごちそうですから、ぜひ食べて欲しい一品です!

 
ちなみに、沖縄のブランド豚
「あぐー」の「ちまぐ」は、
煮つけに向いていません。

毛が太くて非常に取り除きにくいことと、
小さくて食べにくいからです。

ですから「あぐー」のチマグの場合には、
揚げる料理の方がむいているかもしれません。


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てびちを食べるならここ!

さてそれでは、テビチの美味しい、
おすすめのお店をご紹介しましょう。

ちょっと、ディープな場所「栄町」にある
東大」という「おでん」屋です。

実は「栄町」というのは地名ではありません。
実際には那覇の安里にある一角の呼び名です。

しかし「栄町」といえば、地元の人や
タクシーの運転手なら、まずわかります。

東大にいきたいのならば、「栄町ロータリー
を目指すといいでしょう。

東大はそこからすぐのところにあります。

しかし「栄町ロータリー」は、
タクシーの運転手ならわかりますが、
若い人は知らないかもしれません。

ちなみに「ロータリー」と聞くと、
すごく大きな道の交差点のような
印象を受けるかもしれませんが、

「栄町ロータリー」は笑ってしまえるほど、
小さな小さな「交差点」です。

交差点とも呼べないかな?

なぜ、ここを「ロータリー」と
よぶようになったのか…

誰か教えてください(笑)

 

さてさて、栄町にあるおでん屋「東大」は、
おすすめのお店です。

toudaiただし、開店時間が夜の9時ぐらいからになります。
そして朝5時ころぐらいまで開いているお店。

外から見ると、お客が入るような
お店には見えないかもしれませんが、
入り口を開けてびっくりするでしょう。

いつも満席になる人気のお店なんですよ。
おいしいですし、安いですからね。

沖縄の「おでん」は、内地のおでんと
ちょっと違います。

テビチが入っていたり、
レタスや青菜が入っていたり…

おでんの出汁に、
沖縄そばを入れて食べるのも
おいしいんですよ!

(ファミマでも食べられます!)

基本的に「塩」で味付け
しているところが多いですね。

東大も塩だけで味付けしているそうですが、
おでん出汁の色を見ると、しょうゆも入っていそう。

ま、何十年もダシを継ぎ足しして
使っているので、あの色なのかもしれませんが。
 

ここの「てびち」がまた最高なんですが、
ぜひ食べて欲しいのが、「焼きてびち」。

yakitebiti7

画像では、よくわからないかもしれませんが、
テビチ煮をフライパンで焼いたもの。

ゼラチン質を多く含んだテビチを
フライパンで焼くことで、まるで餃子の
「天使の羽」のように仕上がっています。

見た目もユニークなんですが、
これがめちゃくちゃおいしいんだ!

この「焼きテビチ」を真似したり、
アレンジして「揚げて」出すお店も多いんですよ。

 

このお店は、観光客も多いんですが、
地元の常連客にも愛されているお店です。

観光に飽きて、ちょっとディープな
沖縄を楽しみたいのならば、要チェックのお店ですよ。


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沖縄の代表的な汁物「いなむどぅち」|旨味好きなうちなんちゅ

いなむどぅちは、甘めの白みそを使った具だくさんの汁で、
沖縄では、祝いの席に出される代表的な料理のひとつ。
「いなむるち」とも表記されます。

「いなむどぅち」とは、「いな(イノシシ)むどぅち(もどき)」という意味。
ようするに、昔はイノシシを使っていたんだけど、イノシシの代わりに、
豚肉を使って作られるようになったから、こういう名前になったのだ。

しかし、イノシシ汁も確かにうまいんだけど、
この「いなむどぅち」は、名前を変えてあげてもいいんじゃない?
なんて思うほどに完成された、豚肉を使った逸品だといえる。

そもそも「イノシシもどき」とは、この汁料理に対しても、
豚に対しても失礼な名前じゃないか!!

まあ甘めの「豚汁」とも言えるけど、
そうも呼びたくないなぁ。

だって、それだと「豚汁」が中心でしょ?
逆に豚汁のことを「甘くないイナムルチ」と、
呼んでやりたいんだぜ!

豚汁ファンのほうでも、一緒にしないでくれっ!!
なんて思っていたりしてね。はは。

さて、沖縄では、行事料理の汁物として、
中身汁」か「いなむどぅち」が出されることが
多いんだけど、どちらも作るのに時間と手間がかかる。

だから、客のふるまい料理として「いなむるち」を出せば、
あなたのカブがあがることは、間違いないだろう。

イナムルチ用のみそ」なんてのも、
普通にスーパーで売られているから、
味付けに関しては、それほど心配をしなくてもいい。

いなむどぅちを作るにあたって、気を付けたいポイントは、
材料を切り揃えるということと、ダシをしっかりと取るということ。


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「いなむどぅち」作り方

いなむどぅち

料理材料

  • 豚肉(Bロース)
  • カステラかまぼこ
  • 干しシイタケ
  • コンニャク(いなむどぅち用も販売されています。)
  • 厚揚げ
  • 白みそ(いなむるちみそ)

 

 
※沖縄では、肉の部位にAロース、Bロースというのがあるんだけど、
AとかBとかは、お肉の等級を表しているわけではありません。
モモに近いほうのロース部位をAロース、
肩に近いリブロースをBロースと呼びます。
 

 
豚肉をかたまりのまま、お湯でゆでます。
(Bロースと書きましたが、三枚肉でも。)

一度茹でこぼして、再び弱火で30分ほど茹でます。
その時の茹で汁も使うので、捨てないで。

肉を取り出した茹で汁を沸騰させ、カツオ節を入れて、
豚+カツオのダシを取っておいてください。

(もちろん、カツオ出汁を別に取ってもいいですよ)

干しシイタケの戻し汁も使いましょう。

豚肉が茹で上がったら、材料を同じ大きさに切り揃えます。
1センチ幅の長さ5センチ、厚さ2ミリくらいの短冊切りに。

コンニャクは、沖縄ではイナムルチ用に
カットされたやつが売られています。

沖縄には、「カステラかまぼこ」ってかまぼこがあるんだけど、
料理に使われるのは、このカステラかまぼこが多いです。

卵をたっぷり使って蒸した、カマボコ板のない、
巨大なカマボコです。(普通のかまぼこの約6倍程度)

大きさを切り揃えることの多い、沖縄の行事料理には、
この大きなカマボコがちょうどいいのです。

本土にも、カステラかまぼこってあるけど、
それともまた違うんだよな。本土のカステラかまぼこ
の方が黄色いから、卵もたくさん使っているはず。

中身汁や、どぅるわかしーなんかに使われるかまぼこも、
このカステラかまぼこです。

人によっては、仕上がる前にカステラかまぼこを、
加えたりするけれど、カステラかまぼこからも、
美味しいダシが出るので、ことこと煮込んだ方が、
私は好きだなぁ。

かまぼこは、煮るとふっくらと膨らむので、
他の材料よりも、気持ち小さめに切る感じがいいかも。

全ての材料を加え、沸騰させ、アクをとりながら
弱火で20分ほど煮たら、味噌を加えて、さらに
20分ほど弱火で煮込んで、完成です!!

ダシをたっぷりと使う沖縄人

豚+カツオ+シイタケの合わせ出汁は、
うまみが10倍以上になるということを、
何かで読んだことがあります。

(昆布+かつお+しいたけなら30倍とも!)

沖縄では、割とこのパターンの合わせだしを、
使うことが多いんですが、いなむどぅちだけに
限らず、汁はやはり出汁が命ですよね。

沖縄は、カツオ節(全国平均の7倍以上)も昆布も県民一人当たりの
消費量が全国でナンバーワンだと言われています。

(昆布は沖縄では取れないんですけどね。)

で、生のキノコは、沖縄は全国最下位の消費量なんですが、
干しシイタケに限っては、全国上位の消費量。

つまり、沖縄の料理には、それだけ
ダシをたっぷりと使ってるわけなんです。

なのに、さらにダシの素加えたりするからね。

沖縄の風味調味料の消費量は一位っていうしさ。
意味わからんね。どんだけ、旨味好きなんだよ!!
って感じだ。ただ、意外にも、
塩や砂糖なんかは消費量は少ないんだよ。

つまり、沖縄はダシを利かす食文化なんだな。


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