沖縄では、ハリセンボンを食べるのだ。
ハリセンボンのことを沖縄では「アバサー」と呼ぶ。
「アラサー」ではない「アバサー」だ。
ちなみに私は「アラフォー」だ。
ちょ、ちょっと!
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アバサーのかわいくて悲しい話
「アバサー」とは、「おしゃべりな女」という意味。
ハリセンボンを海からあげると、口をパクパクさせる姿が、
おしゃべりをしているように見えるから、
アバサーと呼ばれるようになったらしい。
こんなかわいい顔したアバサー(ハリセンボン)を、
食べてしまうなんて…かわいそうと、感じる人も多いと思う。
うちなーんちゅは野蛮人なのかと、思う人もいるかもしれないが、
単に食文化の違いである。食べない人間からしたら、クジラを
食べることだって、野蛮なのだからさ。
画像引用元:ウィキ これは怖いかな!?
ハリセンボンは怒ると、身体を膨らませて威嚇する。
しかし、その姿は全然怖くない。むしろかわいいぞ。
ただでさえ泳ぐのが下手なのに、身体が膨らむと
その場から動けなくなってしまうという変なヤツ。
泳ぎ方や表情にも愛嬌があっていいのだけれど、
「それじゃ、他の魚に食べられまくりじゃない?」
なんて心配にもなってくる。
しかし、ハリセンボンには実は、天敵はいないのだ。
…たしかに、あんな針だらけのやつなんて、
口の中に入れたくはないよな…
だったら、泳ぎが下手くそでも
問題ないかというと、そんなこともない。
潮に流されて、寒い地方にたどり着いてしまい、
そこで死んでしまうことも多いんだそうだ。
ちょっと不器用な可愛いヤツなんだな、
私と似ているじゃないか…
ちょ、
ブラウザーを閉じるのは、
ちょっと待ってくれっ!!
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可愛いハリセンボンがなまなましい姿に!!
これはヒトヅラハリセンボンという種類。
沖縄の市場に出回るアバサーは、
このヒトヅラハリセンボンが多い気がする。
さて、このアバサー、「フグ目」なんだけども、
毒はない。だから調理するにあたっても、
フグ調理師免許なんてものもいらない。
ただ、針が邪魔なだけだ。
だから沖縄の市場では、皮を剥がれた状態で、
並べ売られていることが多い。
ちょっと生々しい姿だ。市場で観光客を集めるこの姿!
ハリセンボンの針は、皮にくっついているから、
皮を剥げば、自然と針も取れるというわけ。
しかし、ハリセンボンの皮を剥ぐのは、
慣れていない人にとっては、ひどく難儀な作業だから、
通常は皮を剥いだ状態で販売されているのである。
(実は、皮も湯に通して食べるとなかなかうまいのだ。
ただし、針を抜くのが超めんどくさいのである。
ハリセンボンというけれど、実際には針は400本くらい
しかないが、それでも相当面倒くさいことには変わりがない。)
アバサーの食べ方!
沖縄では、ハリセンボンを「汁」か「鍋」、「から揚げ」にして食べる。
(…といっても、家庭でアバサーを調理するところも少ないと思う。)
一応、新鮮なヤツは刺身でも食べられる。
でも沖縄で、アバサーを刺身で食べることは、ほとんどない。
身はプルプルと弾力があって、癖もなくうまいのだが、
なにせ、可食部分が少ないために、やはり汁にするのが、
アバサーの一番いい食べ方なのである。
アバサーは、なんといっても肝がうまい!
確かに癖はあるのだが、濃厚なうまさがある。
…というか、肝を入れなければ、アバサー汁ではないのだ。
だから、アバサーを買う時には、一匹買いとなる。
魚屋で買う場合には、頭を割ってもらうといい。
めちゃくちゃ硬いので(特に口部分)、
家庭では、なかなか解体できないと思うのだ。
肝と浮き袋以外の内臓は、捨て、
身は骨とともに、ぶつ切りにして使う。
ハリセンボンは、見た目の割に身が少ないのだけど、
案外値段は高い。外で食べると、アバサー汁なんかは、
平均で一杯¥1500くらいはするんじゃないかな。
アバサー汁は”おいしい”薬なのだ!
アバサーの汁は、「さぎぐすい(下げ薬)」といって、
のぼせを下げる効果があると言われている。
さらにアバサー汁は、胃腸の調子を整えたり、
血圧を安定させる効果があるというフーチバー(よもぎ)も
使うので、体調の改善にもってこいの汁ものなのだ。
沖縄には、中国の影響によるとされる「医食同源」という考えがあって、
「食べ物はクスイムン(薬)」ということで、「シンジムン(煎じもの)」
を作って、食べ物を薬として民間療法的に扱うことも多い。
煎じるとは、「煮出して薬としての成分を引き出す」ということ。
沖縄では、病気治療や疲労回復、滋養強壮、病気予防として肉や魚、
野草や薬草、野菜などを煮出してシンジムンを作る習慣があるのだ。
だから、このアバサー汁も、アバサーから栄養などのエキスを
最大限に引き出すために、水から徐々に煮出していく。
肝は、泡盛と味噌とともに潰してどろどろにする。
包丁で、叩いてもいい。
肝の筋は煮えれば食べられるので、取り除かなくても問題ない。
身は一度、湯通しして、ぬめりや
臭み汚れなどを取るといい。
たっぷりのカツオ出汁に、アバサーと肝を入れて煮込む。
ぐらぐらしてきたら火を小さくし、ことこと煮込む。
煮ている間、鍋の蓋はしないのがポイント。
何故なら、臭みが汁の内にこもるからだ。
出てきたアクを丁寧に取り除く。
アクを取ったら、肝を入れる。
アバサーの身が十分煮えて、
肝の脂が浮いてきたら、煮込みは終了。
あとは、味噌で味を調える。
フーチバーや青ネギ、生姜等を薬味として。
肝は、すりつぶさずに
具として入れる人もいるが、
アンコウの「ドロ鍋」を作るように、
肝を乾煎りして汁にするのもいいだろう。
その場合出てきたアクを取り除く際には、
浮いてくる肝の粒まで取り除かないように気をつけたい。
(これを捨ててしまっては、もったいない。)
滋養強壮という意味でいうと、
フーチバーもたっぷり入れるといい。
正直言うと、フーチバーもアバサーの肝も、
好みがものすごく別れるのである。
しかし、肝の入っていないアバサー汁も、
フーチバーの入っていないアバサー汁も、
「シンジムン」という点からいうと、
失格なのである。
薬なのであるから、苦手でもそのまま食べなさいっ!!
ということを、おじさんは言いたいぞ。
美味しいからこそ伝わる料理
沖縄の「シンジムン」には、他にも「チム(動物の肝)シンジ」や
「ターイユ(フナ)シンジ」「イラブ―(ウミヘビ)シンジ」など、
様々なものを煎じたものが存在する。
しかしそのどれもが、薬であるのに、
食べなれてしまえば、恐ろしくうまいものなのである。
身体が、今「これ」を求めているということが、
「ぷはーっ」と、飲んだ瞬間にわかるのだ。
うまいからこそ食べる。食べるから効果がでる。
医食同源の考えは、美味しくなければ
今日まで伝承されなかったに違いない。
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